「蛍狩り」 「ほーほーホータル来い」 鈴を鳴らすような声であの娘が歌う 村はずれの小川にかかる木の橋の上で 年頃のあの子が歌う… 綺麗な声で歌うあの娘に誘われて 村の若い男が集まってくる… 「ほーほーホータル来い」と歌うあの子に 「こっちのみーずはあーまいぞ」 「あっちのみーずはにーがいぞ」 と男達が誘いかける 欄干のない木の橋の上であの娘と男達が歌い交わす 何人かの男達に言い寄られて有頂天になったあの娘は橋の上で舞い踊る 私は歌い交わすよりあの娘の足下が危なっかしくて 邪魔を承知で提灯を差し出した。 するとあの娘は提灯を 取らずに私の手を取り引き寄せた 驚く私に微笑んで あの娘はそのまま私の手を引いて橋を降りてしまったよ あの娘に手を引かれるまま黙って歩く私に あの娘はそっとささやいた 「だって、蛍は男が光を放って女を誘うものよ」と、 藤次郎正秀